造語の説明:
大学の教員は、担当した科目の成績をどのように付けるか、一般には公にしません。
各自の独自性に基づいているのですね。しかし、私は「情報心理」の研究として、また「教育工学」の研究として、本務校の教員数人にお願いして、「成績のつけ方」を調べさせていただいたことがあります。
それは、次の図で説明しましょう。
一般に、科目担当教員は最終成績を出すために、日頃からいくつかの「成績を決める材料(素データ)」を、受講生毎にこつこつと集めておきます。例えば、出席を確認する出席カードの点数、レポート提出の点数、小テストの点数、中間試験の生の点数(素点とも、生点ともいう)、定期試験の生の点数などを、教務手帳に書いておきます。
これらのデータを基にして、教務課に出す最終成績(その科目の評価値)を決めますが、図の例では5種類のデータにしてあります。教員によっては、6種類も7種類も用いる場合があります。それを教員独自の成績評価関数(以下、評価関数と書きます)で算出するようです。
これは、本学のような理工科系の大学での理詰めの話ですが、一般には、もっと個性的な、もっと漠然とした「直観型」があるようです。
通常、よく用いられている方法に、「中間と定期の2回の試験(前期試験と後期試験)の平均値型」や、「定期試験(通年1回の試験)の一発型」などがあります。
私は、評価関数の形を、数人の教員のデータを調べて、推測してみました。結論から言いますと、出来の悪い学生には、俗に言う「下駄」を履かせていました。すなわち、一定の値を一律に加えるという嵩上げをするのです。
ところが、このように決めますと、出来のよい学生の成績は100点を超えてしまいます。そこで、出来すぎの学生の成績を、ややカットします。これが「足切り」というやり方です。「下駄を履かせる」+「足切りをする」の2つの操作で生まれたのが、この「下駄足切り関数」なのです。
造った理由:
確かに、評価をするのは難しいことです。たった1回の定期試験の成績で、1年間、あるいは半年間の授業の成績を決めて、何の疑問もでないでしょうか。受講生全体の成績の分布を見ると、どこで線を引くかが難しいのです。
同僚の教員たちは、ある種の論理的なやり方をしていると感じておりましたので、私はこうした「評価関数の同定」を試みたのです。
エピソード:
数人の教員のデータ(私のデータも入っています)を、大学内の教育情報処理の研究仲間の村田光弘さんにお願いして、分析してもらったのです。その理由は、私の主観が入らないようにするためでした。
驚いたことに、「下駄を履かせる」のですが、あまりにも中間試験や定期試験の生点(なまてん)が低いと、「下駄」も履かせないことが見つかりました。それを「堪忍袋の緒」と名付けました。100点満点で、試験の生点が20点以下の者には、堪忍袋の緒が切れていて、下駄も無用としていたようです。
成績の評価ですが、どの点数で「合格=単位ありと認定」と「不合格=単位なしと認定」を区切るのでしょうか。60点は、確かに大学の決まりですが、基となる成績の分布が問題です。2つの山(2こぶラクダ型=双峰性)なら、成績のよい山に属している学生を合格に、成績の悪い山に属している学生を不合格にするのは決めやすいのです。
しかし、以前から教育の理論では、50人程度のクラスでも「ガウス分布型=正規分布型」(1つの山=単峰性の分布)に近くなると言われてきました。ガウス型の分布では、どこで線を引くかが難しいのです。
公表文献:
教育情報処理、情報科学シリーズ6、パワー社、1985年10月。